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結以はオレんちの向かいに住んでる、世間で言うところの「幼なじみ」だ。ガキの頃は毎日オレと脳みそカラッポなことばっかして遊んでたくせに、ちゃっかり地元の国立に合格してしまった。よって、結以は実家を出ない。
「あーもうっ。楽譜ごっちゃじゃん! どれがどれだか分かんないっつーの!」
ショートボブを振り乱して、結以が吼える。体育座りをして「てーねーに扱ってね」と注意したら、マジの殺意を込めて睨まれた。もうちょいで肩につきそうなくらい伸びたオレの茶髪に向かって結以は、「うるせえ勘違い野郎」と吐き捨てる。
「大体バンドやりたくて上京とか痛々しすぎだっての。ほんっと頭悪い」
「なんとでも言ってくださいよ」
ずばずばずばずばオレを罵りまくる結以だけど、実はオレたちが口をきくのは九ヶ月ぶりくらいのことだった。まだ高校を卒業する前、三年の六月、「東京行く」と宣言したオレを結以はバカアホマヌケと散々にこきおろした後で、急に静かになった。
――行かないで。
そう呟いた結以の目尻は、濡れて光っていた。
それからオレたちは、今日まで絶縁状態を貫くことになる。
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