始まりの場所、帰る場所

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 オレには兄貴がいた。  いた、ってことは当然、今はいないってことになる。歳の差五歳だったオレの兄貴は一昨年、つまりオレと結以が高二の夏、東京で死んだ。ホコ天を歩いてた時、暴走したワンボックスにはねられて即死だった、らしい。他にも何人かの死者とたくさんの怪我人を出したその事件の犯人は、「誰でもいいから人を殺したかった」と、テンプレみたいな供述をした。でもまさか、「誰でもいいから」に兄貴が巻き込まれるなんて想像もしてなかったろう。オレも親も結以も、兄貴自身も。  兄貴はオレと違って頭がよくて、おまけに才能があった、絵の。小さい頃から学校の写生大会では毎回金賞だったし、夏休みの宿題でやらされるポスター制作なんかでも入選したことが何回もあった。本人も描くのが好きで、中高と美術部でひたすらインドアに徹していた兄貴の肌は、年中白かった。生まれつき髪や目の色素も薄かった兄貴は透けてるみたいで、笑うと目元に少し幼さを溢れさせる、塩顔系イケメンだった。もちろんオレは学校での兄貴を知らなかったけど、まあモテまくってただろうなとは想像できる。結以も、そんな兄貴に惚れてる女子の一人だった。  オレと結以が幼なじみってことは兄貴と結以も幼なじみってことになる。兄貴は結以をほんとに甘やかした。オレが弟であるのと同じくらい自然に結以を妹だと思ってたみたいで、結以が自分に惚れてるってことに気付いてんのかいないのか、よく分からなかった。
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