始まりの場所、帰る場所

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 オレがバンドを始めたのは高一の時、ダチに「軽音部に入部しないか」と持ちかけられたことがきっかけだった。当時、帰宅部でラクに生きてきたいと考えてたオレは全然乗り気じゃなかったんだけど、まあとりあえず来てみろやという誘いで部室についてって(どうも軽音部は深刻な人数不足で勧誘に必死だったっぽい)、あっけなく堕ちた。ほんとに「堕ちた」としか言いようがないくらい、ダチのギタボも部員のベースも、ぎゅいんぎゅいんとうなり声をあげてオレの身体に入り込み、内側で暴れまくった。がん細胞が体を攻撃しまくるさまを痛みとして実感できたらこんな感じだろうな、と思った。痛くて、暑くて、襟足にぶわりと汗をかいてたけど、すげえ気持ち良かった。ドラムやってくれよ、というダチの懇願にソッコーで頷き、晴れてオレはドラマーデビューした。 「あんたマジで音痴なんだからボーカルだけはやめときなよ」 「お前さっきから失礼すぎ。オレだってなあ、わりかしちゃんと練習してんだよ、キャラに似合わず」 「たかが知れてるっしょ」  高一の秋、文化祭がオレの初めての舞台だった。はりきりまくったオレはもちろん結以を招待して(結以はオレより偏差値にして十五は上の高校に通っていた)、そして、大失態をさらした。まず、ダチが熱出して急遽オレが歌うことになったってのが大誤算(ベースの奴はオレより音痴だった)。で、ボーカルを補ったとこでギターがいなけれりゃ曲のていをなさないのは当たり前で、オレはステージ上で死に物狂いで歌い、叩きながら、観客の空気がどんどんしらけていくのを肌で実感していた。あの惨劇を経験した後もバンドを続けたオレには、オレ自身が一番驚いたくらいだ(結以は演奏の後、すげえ不味いもん食ったみたいな顔で「……お疲れ様」とオレをねぎらった)。
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