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「てかまずバンドがあんたに似合ってない。いい加減やめれば?」
喉をそらしてコーラをラッパ飲みする結以の発言に、他意はなさそうだった。でもオレは、しばらく間を置いた後で「やめねーよ」と答える。
「バンドやりてえなら東京来いって、言ったのは兄貴だ」
つまりバンドをやらないなら、オレが東京に行く意味もない。
結以は二秒くらい硬直して、それから何か言いかけたけど、結局何も言わないまま口を引き結んでしまった。結以にとって「兄貴」という単語は、葵の御紋みたいなもんだ。そんな反応をされるたび、「こいつはまだ兄貴が好きなんだな」と思い知らされて、オレはちょっと胸を毛羽立たせる。
「……ほんとに行くの? 東京」
結以がちょっと下を向くと、髪が頬に影を作っていた。
「さっき荷造り手伝ったじゃん、お前」
頭の後ろで手を組んで投げやりに答えると、結以はあからさまにムッとした。なにそれ腹立つ、と言って、ポテチに汚れた指先をティッシュで力任せに拭う。
「あたしずっと、あんたに怒ってたんだよ」
ふっと、静寂。オレの左手にあるキッチンから、水滴がシンクを叩く音がした。
「ムカついてたの。……ムカついてんの」
オレは立ち上がった。眉を下げ気味にしてオレを見上げた結以に、言う。来いよ。
「見せてえもんがある」
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