さよならジェリー

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「私だってかわいそうだよ。」 そんな気持ちを吐き出して、 水でふやかしておいた粉ゼラチンを、小鍋で温めた青いシロップに少し手荒に放り込む。 「あっつ…。」 ブルーハワイと水で出来た海色が口元に跳ねて、白い肌を赤く火傷させられた。 「もうっ、私がなにをしたっていうのよ。」 シンクに腰を屈めて流水を何度も口に運んでいると、涙が出てきた。 本当に、私はなにをしたっていうんだろう。なんにもしてないくせに、なにを悔しがっているんだろう。 それでも、手を休めるわけにはいかない。私は泣きながらお菓子を作り続ける。 ゼラチンの溶けたシロップに、常温のサイダーを今度は静かに注ぐ。 すると冬の海みたいだった濃い青は、鮮やかな南国の海になった。 それを片口のレードルで、ゴブレットという脚付きのグラスに分けていく。 小さい頃、祖母が行き付けにしていた喫茶店でクリームソーダやオレンジジュースを注文すると、このグラスで出てきたものだ。 中学三年の夏休み、 お店以外ではなかなか見ることのないこのグラスをフリーマーケットで見付けて、帰り道のことも考えずに五客セットで買ってしまった。 箱がなかったから、新聞紙で包んだものをビニールの手提げ袋に入れてもらった。 「本当は箱があったからよかったんだけど…ごめんなさいね。袋、ぶつけて割らないように気を付けてくださいね。」 売り子をしていたおばさんは、すまなそうに袋の底に手を添えてそれを渡してくれた。 グラスが割れてしまうのが怖くて、乗って来た自転車を一時間も引いて帰ることになってしまったけれど、ちっとも構わなかった。 お気に入りを手に入れた嬉しさにはかえられないもの。
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