さよならジェリー

7/16
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
“この素敵なグラスになにを入れよう” そう考えて、最初に作ったのがクリームソーダを模したゼリーだった。 昔、移動図書館で見た本にそんなお菓子があったのだ。 “ぷるんとすくって食べるとね、口の中がシュワッとするの!” 主人公の女の子の言うそれが、どんなものか知りたかった。けれど、作り方なんて書いていなくて、その味は謎のままだった。 それが数日前、書店でふと手にした料理本に、自分が想像していた通りの写真を見付けたのだ。 夢見たお菓子に憧れのグラス。 それを楽しむことを知った私は、お菓子作りが今日まで続く唯一の趣味となった。 あの時は緑のゼリーだったけれど、今日はどうしても青がよかった。 きっと、夢のせいだろう。 あの日、水族館で見た水槽越しの彼を… 自分の背丈より、ずっと高いところを泳ぐ魚達をぼんやりと追う坂本君を、思い出してしまったから。 ゼリー液の中には、リンゴのコンポートとミカンのシロップ漬け。 魚みたいに泳がせて、高く掲げてみる。 リビングからの日の光が入っていい感じ。 どうせなら賑やかにしようと、ナタデココのクラゲも浮かべた。大好きだから、チェリーの缶詰も開けよう。 と突然、携帯が鳴った。 心臓までビクリとしたのは、彼のことを考えていたからだろうか。 その音が、妹からの電話だと知らせていたから。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!