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“この素敵なグラスになにを入れよう”
そう考えて、最初に作ったのがクリームソーダを模したゼリーだった。
昔、移動図書館で見た本にそんなお菓子があったのだ。
“ぷるんとすくって食べるとね、口の中がシュワッとするの!”
主人公の女の子の言うそれが、どんなものか知りたかった。けれど、作り方なんて書いていなくて、その味は謎のままだった。
それが数日前、書店でふと手にした料理本に、自分が想像していた通りの写真を見付けたのだ。
夢見たお菓子に憧れのグラス。
それを楽しむことを知った私は、お菓子作りが今日まで続く唯一の趣味となった。
あの時は緑のゼリーだったけれど、今日はどうしても青がよかった。
きっと、夢のせいだろう。
あの日、水族館で見た水槽越しの彼を…
自分の背丈より、ずっと高いところを泳ぐ魚達をぼんやりと追う坂本君を、思い出してしまったから。
ゼリー液の中には、リンゴのコンポートとミカンのシロップ漬け。
魚みたいに泳がせて、高く掲げてみる。
リビングからの日の光が入っていい感じ。
どうせなら賑やかにしようと、ナタデココのクラゲも浮かべた。大好きだから、チェリーの缶詰も開けよう。
と突然、携帯が鳴った。
心臓までビクリとしたのは、彼のことを考えていたからだろうか。
その音が、妹からの電話だと知らせていたから。
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