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真っ赤な夕焼けを背に彼女は言った。
「またね。」と。
それから十年会えずにいる、失踪したと回りは言うが直前まで一緒に居た僕はどうしても信じられない、信じられる訳がない。
二十七歳になった僕は、また同じ場所で、真っ赤な夕焼けを見ていた。
「大丈夫ですか?」
心配そうな顔をして見上げる一人の少女が居た。
僕は、道の真ん中で、涙を流し震えながら立って居たのだ、そんな奇妙な人間に声をかけるなんて、とても純粋な心の持ち主か、余程のお人好しだ。
「あぁ、すまない邪魔だったかい。」
涙を袖で拭った。
少女はニコッと笑い「またね。」と言って走って行った。
ズキッと頭に痛みが走る。
「あぁ、そうだよ…会ってる、またねっと言われて…僕は夜に会っていた。」
森は全てを包み込む程に暗い、十年前の僕たちのことも隠し続けてくれていた。
人も来ない、日も当たらない小さな洞穴に僕たちの時間があった、両親とも帰りが朝方だったので、僕たちは時々この場所で夜中を過ごした。
小さな地震で崩れ生き埋めになった彼女を僕が見捨て忘れていたのだ、どうして誰も「またね。」と言うヒントに気付いてその後に会ってないのかと問い詰めてくれなかったのか?
親も、警察も、友達も、先生も、どうして、何で、何故、気付いてくれなかったんだ。
僕は叫びながら、素手で埋もれた彼女を掘り返す、直ぐに指先が痛みだし爪は剥がれた、暗くても月明かりで土が赤くなっていくのがわかった。
土の冷たさが、指先の感覚を奪い痛さが分からなくなる程に麻痺した頃、回りを見て僕は泣いた、何も出てこない、僕の血が混ざった土しかないじゃないかと、十年たっても助けられないのか?
その場にうずくまり顔を土に潜らせた。
「何してるんですか?」叫び声の様にも聞こえる問いかけだった。
さっき夕焼けの道で会った少女だ、あまりにも様子がおかしくて、昔自殺した兄の前日にそっくりだったから、心配してついて来てしまったそうだ。
ふふふと笑い泣き顔で少女を見上げ、ありがとうと告げた。
少女は、土だらけの僕の顔を払い、汚れの一部を摘まみ言った。
「ま、種。」
完
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