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天の滴が、地上を濡らす。
疲れ切った体をソファへと投げ出し、ルキウスは雨のまだ降りやまぬ窓の外を眺めていた。
ルキウスは義父、クラウディウスのことが好きだった。
決して聡明ではなかったが、優しく、妻の連れ子であった自分にも、溢れるほどの愛情を与えてくれた。
その義父が亡くなった。今朝早くのことである。
知らせを受けたとき、ルキウスは目の前が暗くなるのを感じていた。
確かに彼は高齢の上病弱で、長く患ってはいた。昨夜、食事のときに卒倒したのも知っている。
だが、いつものことだった。従者や母も、なんら普段と変わらぬ仕草だったので、容体がそれほどまでに悪いとは思ってもみなかった。
なのに、朝目覚めてすぐに悲報を知らされたのだ。驚かないはずもない。
それからはただ慌ただしくて、悲しむ時間すら与えられなかった。
義父――ローマの四代皇帝、クラウディウスの後継者となっているルキウスには。
慣例により、兵営で宣誓をし、元老院へと挨拶に訪れた。
近衛兵たちに向けての演説は、苦痛ではなかった。突然のことで即興に近くはあったが、自らの弁論術には自信があったからだ。
ルキウスを疲れさせたのは、それに続いた元老院訪問だった。議員たちはルキウスに、度外れとしか思えない数々の栄誉を与えたのだ。
けれど知っている。これはルキウス個人に与えられたものではなく、皇帝という位に捧げられたに過ぎないことを。
証拠に、成人はしているものの限りなく子どもに近い十七歳のルキウスに、国父――ローマにおいて、もっとも栄誉ある称号すら与えようとしたのだ。
さすがにこれには驚くというよりも呆れ、年齢を理由に断ったのではあるが。
これが政治。皇帝という仕事。
自らに課せられた使命の苦痛を思うと、辟易せざるを得なかった。
昨夜から降り続く雨は、止む気配もない。まるで自らの心を映す鏡だと、詮無いことを考えたりもする。
否、天もクラウディウスの死を悲しんでいるのではないか。そう思うほどには、寂しさを覚えている。
それでも、不思議と涙は出てこなかった。忙しさのあまり、感覚が麻痺でも起こしたのかもしれない。
考えて、そっと頭を振った。
おそらく、そうではあるまい。思い出すのは、実父、ドミティウスが亡くなったときのことだった。
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