すみこと生物室

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 気付くとあたしは、いつかみたいに駆け出していた。美都の戸惑った声が後ろからついてくる。あたしは転がるように駐輪場まで走って、自転車に飛び乗った。そのまま校門までかっとばして、でも途中で進路を変えて運動部が散らばってる校庭に降り立った。南校舎に向かって、叫ぶ。 「バカバカバカー!」  あたしは高校生活を、とびきり充実させるつもりだった。超イケメンな彼氏を作って、一緒に勉強したりデートしたりすることを夢見てた。なのに。  すみこのせいで、全部台なしだよ。 「あたしの青春返せ!」  背中に突き刺さる視線が痛い。たぶん今、あたしめっちゃ注目されてる。もちろん悪い意味で。  ようやくあたしに追いついた美都が、自転車を置いて「どうしたの鈴ちゃん」と心配そうにしたので、あたしは美都の腰にがばっと抱き着いた。 「美都大好き」  美都のにおい。甘くて、あったかくて、女の子のにおい。 「なあに? 私もだよ、鈴ちゃん」  美都はあたしの頭を、柔らかく包んでくれた。声が、ちょっと困ってたけど。  あたしは東京の私立に進学する。美都は、発表はまだだけど、地元の国立に絶対合格している。二人とも、もうここには通わない。  でも、あたしたちはこれで終わりじゃない。高校生活は終わっても、あたしたちの関係は終わらない。もし美都が颯斗くんと別れることになっても、あたしたちはずっとずっと親友でいられる。意地でもいてやるって、決めてる。  あたしは美都と、ずっと一緒なの。うらやましいでしょ? ねえ、すみこ。
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