すみこと生物室

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「すみこは、逃げてるよ」  座り直して、あたしは言った。 「一回くらいさ、美都は俺のもんだって反論したらどう?」  すみこはまた頬杖をついて「無理だろ」と呟く。 「実際、俺のものじゃないんだし」 「そうだけど……」  そうだけど、あたしはそういうことを言いたいんじゃない。でもなんて言い返したらいいか、って口ごもってたら、すみこがふっと、まつげを伏せた。 「井川からしたら、俺は逃げてるのかもしれないけど」  首を巡らせて、すみこは南側の窓を見やった。横顔に陽光がかかって、鼻や唇の凹凸に沿って影ができる。まぶしいのかもしれない、目が細くなった。 「俺は、自分が間違ってるとは思わないよ」  なにそれ、と思った。なにそれなにそれなにそれ。  すみこの横顔とか静かな口調とか、生物室に落ちた陽の光の感じとか。なんだか全部映画的でクサくて、あたしはムカついた。これは現実で、すみこはすみことしてちゃんと生きてるんだから、もっと人間っぽくいてほしかった。生々しく、貪欲に、醜いくらいに悪あがきしてほしかった。
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