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「桜……? なんで11月に桜が咲いてるの?」
「今は3月だ」
「3月? 今、11月でしょ?」
「今日は3月20日だ。沙耶、お前は4ヶ月間ずっと眠っていたんだ」
沙耶の傍に戻った駿が、
イスに座りながらそう伝える。
パチリパチリ、
と沙耶は何度か瞬きをした。
頭の中が混乱中。
記憶は11月20日で止まっている。
起き上がろうとした沙耶を駿は片手で制し、
静かに問いかけた。
「気分はどうだ?」
「いいよ。ねぇ……私の手術終わったの? 成功した?」
「ああ、手術は成功した。体の中にあった癌細胞を取り除いて、術後に抗癌剤の点滴を投与して、今は癌の再発も見られないし副作用も起きていない。血圧正常、脈拍正常、顔色良好、体の傷口も綺麗に塞がったと11先生が言ってた」
その言葉にホッと安堵する。
良かった……。
相変わらず綺麗な顔の我が王子の顔。
毎日見ていたはずだけど、
そういえば久しぶりに見るような気もする。
頭の中が混乱したまま、
ぼんやり思い出して沙耶が訊く。
「今日は3月20日……ねぇ、海外留学の帰国は3月25日じゃなかった? 早く帰ってきたの?」
「海外留学は行かなかった」
「え……」
「辞退した」
沙耶を真っ直ぐに見て駿がそう伝えた。
静かな個室。
この部屋には沙耶と駿の姿しかない。
沙耶の母親の姿はない。
駿はきっと今までそうだったように、
今回も自分の傍にずっといてくれたんだろう。
当たり前のように……自分を犠牲にして。
ベッドの中で駿を見たまま黙り込んだ沙耶に、
駿は顔色ひとつ変えずに言う。
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