第6話 闇は迷い、白椿は誘う。

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第6話 闇は迷い、白椿は誘う。

「ね、サマエル。私はあとどれくらい生きられる?」 志津音は男を見上げた。 二人は熱い口づけを交わしたあと、 椿並木のベンチに腰を下ろしている。 サマエルの膝の上に志津音が腰を下ろし、 少女はすっぽりと男の腕におさまっていた。 志津音は男の鼓動を後頭部で聞きながら、 男に身を預けていた。 …死神でも体温もあるし、 心臓もしっかりるあるのね… 甘い余韻に浸りながら、 志津音はそんな事を思った。 男は、 自分の胸の中で甘えるように見上げた少女の、 星を湛えたかのような美しい瞳に酔いしれる。 だが、 少女の問いかけは彼を一気に現実に引き戻した。 「志津音…」 男は哀しげに少女を見下ろすと その腕に力を込めて彼女を抱きしめた。 「お願い、教えて! 残りの時間、精一杯生きたいの。 そして、 可能な限りあなたの傍にいたい!」 志津音は男の腕を軽く触りながら 必死に訴えた。 …志津音… 男はいずれ志津音の魂を刈らねばならぬ事に、 怯えはじめていた。 出来る限り先に伸ばしたい! ギリギリのその瞬間まで、 少女に生きてて欲しかった。 だが、 自らの迷いは彼女が逝くべき時に行けず、 壮絶に苦しんだ上に転生にまで影響を及ぼす。 答えは明白だった。 志津音の気持ちは痛い程理解出来たから。 男は覚悟を決めた。 「今日を入れて7日後の24時迄だ」 男は少女の目を見つめ、 迷わずハッキリと答えた。 そして、 少女の美しい黒髪に口づけをした。 少女の髪は、 微かに甘い香りがし、 そして滑らかで心地よかった。 少女は自らの問いかけに、 男が狼狽え辛そうに眉を顰める姿を見て 自分が深く愛されている事に至上の幸福感で満たされた。 男はしばらく逡巡したあと、 オリエンタルブルーの瞳は一条の光を放ち 志津音を射抜く。 少女は男が自分を看取り、 最後のその瞬間まで自分と共に寄り添う覚悟を感じ取った。 この上なく幸せだった。 「ありがとう」 志津音は男を見上げた。 腕の中でお礼を述べ、 自分を見上げる少女は、 幸せに包まれているかのような笑みを浮かべた。 大きな漆黒の瞳が、 満点の星を湛えてキラキラ輝く…。 男は堪らなく愛しさが込み上げ、 少女の唇に軽く吸い付いた。 二人は小鳥が啄むように、 軽い口づけを交わす。 白椿が嬉しそうに風に揺れた。
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