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サマエルは大鎌を振り下ろす寸前に、
…この男にも、
想う女はいたのだろうか…
と言う疑問がふと芽生える。
彼は慌てて大鎌を持ちなおし、
体制を整えた。
「マズイ。迷いは断ち切らねば。集中しろ、俺!」
彼は自分に喝を入れると、
一気に男の頭上に大鎌を振り下ろした。
男は安らかな顔で、
こと切れていた。
サマエルはホッと胸を撫で下ろす。
死んだ男の胸に白く神々しい光が集まる。
そしてそれは、
徐々に蓮の花を形どった。
光の蓮の花は、
フワリと待ってサマエルの両手に乗る。
あれから志津音と一旦別れ、
サナトリウム内で刈るべき魂を刈り取っていた。
言わば仕事である。
仕事を素早く正確にこなし、
その後で志津音の元へ行くのだ。
もし彼女が寝ていたら、
添い寝をする。
仕事以外は志津音の元で過ごす。
二人の間で、
そんな約束事がなされていた。
だが、
素早く仕事をこなそうにも、
大鎌を振り下ろす瞬間に先ほどのような迷いが生じてしまう。
彼は秘かに、
自らの仕事に疑問を持ち始めていた。
夜の帳が落ち始めた頃…
サナトリウムから1キロほど離れた場所で、
サマエルはウリエルを待つ。
彼の右傍らには、
6個程の光の蓮の花がフワフワと舞っていた。
「待たせたな」
ウリエルは彼の前に舞い降りた。
サマエルから蓮の花を丁寧に受け取り、
光で6個の筈の花を包み込む。
不意に、
何かに気付いたようにウリエルは深紅の瞳が、
鋭くサマエルを見据える。
「迷うな!!!
お前の仕事は魂を刈り取る事。
お前の迷いは、魂の転生を狂わせ
ひいてはこの宇宙にも歪が起きてしまう!!」
ウリエルはそう叫ぶと、
左腰の銀色の剣を引き抜いて、
その切っ先をサマエルの首筋に向けた。
「迷いを断ち切れ!!!」
ウリエルは言い放った。
サマエルは降参したように両手を上げ、
「そうだな、その通りだ」
と自嘲しつつ、
ウリエルを見つめた。
ウリエルはそっと剣をおさめると
穏やかな眼差しで彼を見つめ
「…お前のプライベートの事は何も言わん。
だが、仕事はしっかりと割り切れよ」
と言うと彼は光の蓮とともに天へ飛び立って言った。
サマエルはそれを見送りつつ
「ヤレヤレ。あの堅物男に指摘されるようじゃ、
俺は相当鼻の下が伸びてるんだろうぜ」
と苦笑し、肩をすくめた。
そして志津音の病室へと瞬間移動した。
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