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「俺もだ、愛してる。永遠にお前を!」
サマエルの瞳から、雫が零れ墜ちた。生まれて初めての涙だった。
「嬉…しい、サマ…エル…。あなたに、会えて…幸せ…」
涙を流しながら、志津音は想いを必死で言葉にする。
「あ、り、が、と…」
と言いかけ、そのままガクリ、と頭を垂れた。…それが、彼女の最後のメッセージだった。
「志津音?」
サマエルは必死に彼女を揺さぶる。…しかし、彼女はもう…。
「志津音――――――っ」
彼は悲痛な叫びを上げると、大声を上げて泣いた。生まれて初めて、悲嘆にくれる、絶望するほど悲しい、という感情を知った。
庭の深紅の椿が一つ、ポトリ、と風も無いのに落ちた。
ひとしきり泣くと、男はそっと志津音をベッドに寝かせた。そして彼女に両手を翳すと、ダークグレーの光が手の平から溢れ出し、やがてその光は志津音を優しく包み込む。血まみれの彼女、そしてシーツが綺麗になっていく。その光が消えると、サマエルは丁寧に、彼女にお気に入りのワンピースを着せた。そして意を決して立ち上がる。
大きく深呼吸をすると、背中に従えている闇色の大鎌を取り出した。そして一気に志津音の頭上に振り降ろす。やがて志津音の胸から、得も言われぬ美しい白い光が溢れ出し、それは徐々に蓮の花を象る。完全に蓮の花の形になると、甘えるように彼の胸の中に舞い込んだ。
「志津音。俺もお前に会えて幸せだったぞ。愛してる」
そっと蓮の花を抱きしめ、この上なく優しい声でそう語りかけた。
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