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第2話 白き花は闇に乞う
「怖い? どうして? あなたは私を苦しみから救ってくれるんでしょ?」
少女はまるで男を待ち焦がれていたかのように、恍惚とした表情を浮かべる。その大きな漆黒の瞳が、夢見るように男を見つめた。
「ば、馬鹿な! お前、俺の正体を本当に知っているのか? 俺は天使なんかじゃないんだぞ、俺は……」
男は狼狽し、自らの正体を明かそうとする。
「だから、死神でしょ?」
少女は嬉しそうに彼を遮る。男は驚愕した。
「ね、私を早く連れてって……」
少女は喘ぎつつ、ベッドから足を下ろす。そして男の傍に行こうと弱々しく一歩を踏み出した。男は更に驚愕する。
今まで天使だと思って焦がれた者はいた。正体を知ったと同時にその人間は恐怖におののき、拒絶反応を示した。だがそれは、至極当然の反応であり、男は自分の仕事は人間に忌み嫌われるものだと割り切っていた。
だから、自分の正体を知っていて、そんな反応をした人間は初めてだった。
少女は弱々しく一歩を踏み出す。二歩目を踏み出すと同時に、
「ごほごほ…げほっごほっ……ごほごほごほ……」
膝をついて崩れ落ち左手で胸を押さえ、右手で口を抑え激しく咳き込んだ。
「お、おい!!?」
男は慌てて少女の背後に瞬間移動する。そして右手で少女の背中をさすった。思わずそんな行動を取ってしまった自分に戸惑いつつ……。
少女は苦しさと戦いつつ、男が自分の背中をさすってくれる事に驚き、咳き込みながら背後の彼を振り返った。
男は、驚いて自分を見つめる少女の瞳に釘づけになる。
……なんて、澄んだ目をしてるんだ……
「ごほっ……げぼっがはっ……うっごぼごぼ……げぼっ」
不意に、少女の咳が吹き上げるように変わり、蹲って口を抑えている右手から鮮血が滴り落ちる。少女はそのまま倒れ込んだ。
「おい!?」
男は焦って左手で少女を支え、
「大丈夫か?」
と言いつつ右手で少女を抱き起した。男の腕の中で、少女は苦し気に喘ぎつつ弱々しく目を開けると
「く、苦し…い…。
お、願い……今すぐ私を、解、放し、て」
と
息も絶え絶えに訴えると、そのまま意識を失った。男は、自分の腕の中でぐったりしている少女をほんの少しの間見つめる。少女はそのまま消え入りそうなくらい儚げで、そして美しかった。まるで、散り際を心得最後の命の力を燃やし尽くす花のように……。
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