第3話 闇は白き花を想う

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第3話 闇は白き花を想う

正午過ぎ… 男は初老の男性が寝ているベッドの頭の位置に立っていた。 サナトリウムのある病室だ。 「時間だ。全ての終わりの時だ」 男はそう言い放つと、 背後の闇色の大鎌を取り出す。 そして男性の頭の上に振り上げ、 思い切り振り下ろした。 この鎌は、 本当に男性の肉体を切り落とすのでは無い。 魂を刈り取るものである。 この時 男に鎌を振り下ろす事に迷いがあると、 魂は中途半端に肉体に残る事になる。 すると 人間は肉体は死しても尚、 壮絶・地獄の苦しみを味わい その魂は自縛霊となって悪霊化してしまう。 その為死神は、 人間からは無情・無慈悲・冷酷にしか見えなくとも、 迷う事無く、 一気に大鎌を振り下ろす必要があるのだ。 男性は長年患った結核の苦しみから漸く開放され、 安らかな表情を浮かべてこと切れていた…。 男性の胸の部分から、 白い光が溢れ出す。 そしてその光は 徐々に強くなりキラキラと輝き出すと、 やがてそれは5cmほどの球体となり、 一際眩しく輝いた。 そしてそれは、白い光の蓮の花と変貌を遂げ、 男の差し出す右手にそっと舞い降りる。 …美しいな… 男は毎回、人間の魂の美しさに感動する。 それは生前にどんな悪を繰り広げた人間でも、 肉体から離れた魂の美しさは変わらない。 男は思う。 人間の言う「性善説」とは、 この魂の美しさから来たのかもしれない、 と。 男は光の蓮の花を丁寧に持つ。 そして消えた。 男は、 サナトリウムの庭に立っていた。 今が咲時と、 咲き誇る椿を眺める。 赤、ピンク、斑…。 男はふと白い椿に目を奪われた。 …澄み切った夜空に瞬く星のように輝く 少女の瞳が頭を過る… 「…志津音…」 男はその名を呟いた。 その白い椿はあの少女を想わせる。 男は白い椿を見つめ続けた。 「すまん、待たせたな」 不意に、 男の背後から低く落ち着いた声が響く。 男は振り返ると 「ウリエル!」 とその声の主の名を呼んだ。 「どうした?お前がこうも簡単に背後を取られるなど…」 ウリエルと呼ばれた男は、 そう言って笑みを浮かた。 その男は「大天使ウリエル」 グレーのローブを身に纏い、 銀色の剣を腰に。 銀色がかった輝く白い髪は胸のあたり迄伸ばされ、 軽くウェーブがかかっている。 髪と同じ色の翼を背に持つ。 image=504433703.jpg
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