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まだあんまり動物を見ていないのに、そうこうしているうちに、いい時間になってしまった。空はまだ明るかったけれど、もっと遅くなると電車が混んでしまうかもしれないので、わたしたちは早めに動物園を出ることにした。
駅までわたしたちは手をつないで歩いた。
本当に今日は楽しい一日だった。わたしはそう言おうと見上げると、ママたちは足を止めて目をまん丸くさせていた。
「パパ――」
ママたちがざわついた。すると駅の方から男の人が現れて、200人、400人、600人と、どんどん増えていく。800人――全員がパパだった。
800人のママと800人のパパが向かい合う様子は、まるで日曜日の時代劇で見た、戦国の合戦みたいだった。
「ただいま」「いま帰ったよ」「元気だった?」「りさ、大きくなったなぁ」――
「パパー」
パパたちが今日帰ってくるなんてちっとも知らなかった。たぶんママも知らなかったみたいだ。わたしとママは嬉しくて、パパたちに飛びついた。
「おかえりパパ」「突然どうしたのパパ」「なかなか帰れなくてごめんね、りさ、ママ」「お土産があるよ」「会いたかったわ」「元気そうねパパ」「ママもりさも元気そうで安心したよ」「本当、うれしい」「動物園はどうだった?」「パパもずっと会いたかったよ」「楽しかった」――
わたしとママとパパしかいないのだけど、ごちゃごちゃして誰が何をしゃべっているのかわからない。いつもにぎやかな家族がもっとにぎやかなことに、わたしはうれしくて涙があふれた。
わたしとパパとママ、1601人は駅までの短い道を一緒に歩き、そこから8回にわかれて家に帰った。
おわり
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