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くよくよと考え続けても埒が明かない。
よし、行くか。
私は意を決して大きく息を吸いこみ、五百円玉を井戸に投げ込んだ。
――上野天馬さん、どうかお互いにとってあまり面倒でない再会を希望します。どうかどうかお願いします。お願いします。お願いします。
井戸に吸い込まれていった五百円玉は、しばらくしてかなり遅れて小さくキィンという音を鳴らした。
時間差から考えると思ったより井戸は深そうで、中をのぞき込もうとしたその時。
急に辺りが暗くなり頭上が真っ黒な雲で覆われたかと思うと、強風が吹き荒れ稲光がとどろいた。
そして目の前の井戸から、もくもくと黒い煙が立ち上ってくる。
何これ!? どういう演出になってるの!?
空や周囲、井戸を繰り返し確認しつつまごまごしてると、井戸から吐き出されてきた煙が中心に集まり、まるで巨人の手のようなシェイプになった。
え、ええええええ!!
もう思考がついていかない。これは、完全に夢に違いないと思った。
とうとう巨人の手が私の胴体をがしっとつかみ、井戸の方向へずずずと移動を開始する。
「ひいいぃやああぁ」
えっ、うわっ、これは本当にやばい。
死ぬ。本当に死んじゃうかも!!
なんで、なんでこんなことに!?
あの占い師さんを信用しちゃだめだったってこと!?
いや、待って待って、冷静になろう。
こんなこと現実なわけないし。
よし。一度目をつぶって目覚めたら、きっといつものお部屋の布団の中に違いない。
引きずられながら念じて、無理矢理目をつぶる。
そして、次に目を開けたら。
深い深い奈落の底へ落ちていくところだったとさ――
おしまい。
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