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「そんなに言うならアポリュオーン様みたいな漆黒の闇をクールに纏ったカッコいい存在になってから出直して! ごめん、もう行くね」  目をぱちぱちしてあたしを見る天馬くんに背を向ける。 「あっ、待って! 中根さん、あの、あれを……」  もう話をする気にはなれなくて、あたしは振り返らずにその場を去った。  うう、痛い。  いろんなとこがいろんな意味で、痛すぎ。  遠い昔に抹消したはずの羞恥にまみれた記憶が、こんなときに鮮明に戻って来るなんて。  あの頃の私は、ひたすらオタク街道まっしぐらなマイペース少女で、大好きな漫画以外のことを考えている時間はほとんどない。  寝ても醒めても、大好きだった少年漫画の登場人物であるアポリュオーン様への愛に生きていた。  でも高校生になったとき、その対象は部活と部活の先輩にとって代わられ、漫画のことなどすっかり上書かれて消えてしまう。  それにしたってちょっとひどすぎる、我ながら。  ごめん……。すでになんて謝っていいのかもわからない。本当にごめんね、天馬くん。  はっ。  お、終わってない?  っていうか、私は何をしてたんだっけ?  心だけじゃなく腰やら足やらがリアルに痛くて目が覚めた。  視界がいまいち不明瞭なので、何度か目をこすって辺りを見回してみる。 「えっ、なに、ここ……」  そこには、今まで見たこともないような景色が広がっていた。  一言でいえば荒野。全体的に赤黒くそしてあちこちから煙が上がっている。そして何かが焼け焦げたような匂いに何度もむせてしまう。 「まさか、これ『地獄』とか、言う……?」 ――もし「またね」と言ってなかった場合、地獄を見ることになるそうですから気を付けてください。  占い師さんの言葉がよみがえる。  つまり、私は天馬くんに「またね」って一度も言ったことがなかったってこと?  そんなことって……。  私は小さい頃から、別れの言葉はほぼ「またね」しか使ったことがない。「さようなら」はなんだか重すぎだし、「じゃあね」は何がじゃあなのか考えてしまって敬遠気味だった。
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