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「ど、どうして私の名前を……」
一瞬目をつぶって、迷いを捨て去るように首を一度振った。
「……僕は、天馬だよ。上野天馬、って覚えてる?」
「えええっ!!」
驚きのあまり口を手で押さえることも忘れ、成すがままあんぐりと開けっ放し。
「だ、大丈夫? 立てる?」
天馬くんと名乗った馬の人(?)は蹄鉄がはめられた右手を差し出し、はっとなってすぐに引っ込めてしまった。
代わりに左手を私の目の前に出す。そっちは人間の手だった。
「あ、ありがとう」
「そなたの馴染みだったか」
「はっ。アポリュオーン様、この者と2人で話す時間を少々頂戴したく」
「好きなだけ話すがよい。我らはこの辺りを引き続き巡邏しているぞ」
そう言うとアポリュオーン様とそのバックたちは移動して行った。
「ごめんね、怖かっただろ」
「えっ、あ、うん。……えっと、本当に天馬、くんなの?」
「そうだよ。ちょっと姿変わっちゃってるけど……」
「なんでこんなとこに?」
「僕、中3のときに事故に巻き込まれてね。完全に僕の不注意だったんだけど、人間としての命を落としてしまった」
「そうだったんだ……。ごめんね、全然知らなくて」
「いや、転校先でのことだし、君と同じ中学の人はほとんど知らないと思う」
「でも、私のこと好きでいてくれた人にそんな不幸があったなんて……」
「そんな風に言ってもらえるなんて、思ってもみなかったよ。僕のことなんてすっかり忘れて暮らしてると思ってた」
「う……。それはそうだったんだけど……。いろいろあったって言うかなんて言うか」
「中根さんのほうこそ、どうしてこんなところまで? 見たところ生身の人間みたいだけど」
とりあえず、私はここに来るまでの経緯を包み隠さず説明した。
天馬くんは、頷いたり微笑んだり、時に目を丸くしたりしながら話を聞いてくれた。
馬だけど、なんとなくわかる。そうだこの人はこんな風にいつも柔和なイメージの人だった。
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