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樹々に守られた尾根道を登った先に、その祠(ほこら)はあった。
絶景とまではいかないけど急に視界が開けて、崖下に広がる集落が真っ直ぐに見渡せるちょっと不思議な場所だ。
そのうえ、この祠――「亦子(えきし)の祠」はその形状もなんだか妙だった。
いわゆる神道的なお地蔵さんとお社じゃなくて、石が形良く積み上げられただけの極シンプルなもの。
周囲の空気すら巻き込んで、ここだけリアルじゃないような錯覚に陥ってしまう。
私――中根莉々紗(なかねりりさ)がこの祠を訪ねたのにはもちろん訳がある。
ひと月ほど前、私は半年付き合ったカレシに突然逃げられた。
従順なヒモになるからどうか傍に置いてほしいの、とけなげに言う大学時代の後輩。
そんな大したものを貢いだわけではないけど、毎日三食昼寝付きで動画投稿サイト三昧。ガンガン遣いこまれていく日々の生活費。
半年ほど経って少々釘を刺したところ、預けていた生活費を持って忽然と消えていた。
遅かれ早かれこうなるという予測はあったものの、未練や執着を感じてしまう自分が、ひたすら情けない。
冷静に考えれば利用されてただけの話なのに、依存しきった心はうまいこと事実を回避する方向へ思考を持って行ってしまう。
ちなみに。
その前の年上カレシは付き合って2年経った頃に、妻子持ちだったことが発覚。これも突然のことで忘れるのに結構な時間を費やした。
さらに前は、長期の片思いを経て付き合った先輩を、いつも恋愛相談していた親友に寝取られて終わる。漁夫の損みたいな状態になってかなりしつっこく引きずった。
どれもこれも人に話せばよくある話で片付けられるけど、まとめてかかって来られると身も心も朽ち果てます。
たぶん、私はいわゆる、あれを持ってない。
下世話な言い方をすれば、「男運」というやつ。
傷心のまま正月に帰ったおばあちゃんの家で、見かねた従姉妹(いとこ)に真顔で言われた。
「ちょっと男運やばいね。占いでもしてもらったら?」
「占い?」
「何が原因なのかとか、わかるんじゃん?」
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