プロローグ

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 その場で軽く弾み、トントンと足慣らしを終えたら、目を閉じて深呼吸を二回。  いつもどおりの程よい緊張感。  大丈夫。集中はできている。 (もしこれを跳べたら)  どこにも誰にも届くことのない小さな願掛けを胸に、西野彩香(あやか)はそっと目を開けた。  数十メートル先に待ち受ける白いバー。  高々と掲げられたそれに向かって、挑むような祈るような気持ちで走り出す。 (跳べたら――あたしはきっと負けないでいられる……)  スピードを上げて弧を描くようにバーに走り込み、左足で勢いよく踏み切り、跳ぶ。  地面から高く跳ね返ったボールのように、振り上げた右腕と反り返る上体がバーの上すれすれを這うように越えていき―― (んでもってご褒美にアイスだっ! …………あ)
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