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とりあえず他人の目もあるためあわてて宥めるか場所移動しなければ、という彼女の意図はわかる。
わかった――が。
残念ながらもう遅かった。
もはや行き交う人々の注目は避けられないし、少しだけ発散させてもらう。
「ああああああぁっ! ムカつくー!」
「……」
あきらめ眼で頭を抱える柚葉を尻目に、雄叫びながら日に焼けた色素の薄い短い髪をわしゃわしゃと掻き乱し――――
そして突然思い立ってしまった。
いつもどおりに。
「よしっ。こんなときにはやっぱアイス!」
ぽん、と手のひらに『グー』を打つなり脚はスタートを切っていた。
今の今まで不機嫌さだけで叫び散らしていたのがまるで嘘であったかのような軽快なフットワークと、100m競走で鍛えあげられた隙のない完璧なフォームで。
大好物のアイスクリームただひとつを目指しながら――。
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