チョコレートドリンク

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知らない人を好きになった。 変な話だけど、いわゆる「一目惚れ」ってヤツだ。 私は別に面食いじゃないし、男と付き合ったことが無いわけでもない。 だいたい、まだ元彼と別れて三か月くらいで、特に恋愛依存症でもないので、恋人が欲しいとも思ってはいなかった。 その人は、笑顔があまりにもキュートだった。背は高くてたぶん百八十センチくらいある。 サラサラの髪にスラッとした体型、女性のような細い綺麗な指。 ファッション雑誌のモデルのような人だ。 彼と出会ったのは、会社近くの喫茶店。 モダンなカフェではなくて、昔ながらの純喫茶という感じの古くさい風体のお店で、それまでは店内に入る気もしなかった。 その日は、たまたま仕事終わりに友だちと待ち合わせるために、彼女も知っているこの店を選んだ。 仕事終わりと言っても、その日は土曜日で午前中の二時間だけ休日出勤。急ぎの仕事を片付けて終わりだったから、その後に待ち合わせて、ランチを一緒に食べようということだった。 店の扉を開けると、これまた古めかしい感じで、テーブル席が数席とカウンター。マスターは私服っぽい地味な服を着ていた。 彼がいたのは、そんなマスターの正面、カウンター席だった。 常連客なのか、珈琲を飲みながら、マスターと楽しそうに談笑していた。 「いらっしゃいませ」 マスターは、軽く会釈をして、手振りで「お好きな席へどうぞ」と伝えていた。 話していたマスターにつられてか、彼もこちらを振り向いた。 その甘い容姿にドキッとしながら、思わず合ってしまった視線を慌てて逸らした。 「ご注文は?」 「あ、珈琲をホットで」 「かしこまりました」 その後のことは、よく覚えていない。 そのうちに珈琲が運ばれ、友人が来て、少しそこでお喋りをして、その後は店を出てランチのお店に行った。 ただ、その日から、私の頭は彼のことでいっぱいになってしまった。 何て名前なのだろう。何才くらいなのだろう。何をしている人なんだろう。 彼について、もっともっと知りたかった。
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