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嘘…私は知っていた、彼を見た瞬間あの時たわいもない約束を交わした男の子…胤也君だって、目元もその容姿も、あの時のまま大人になっていた。
あれだけ衝撃だった男の子を忘れる事なんて私には出来なかった…この身体の事実を知るまで、いや、この身体になっても…
多分、あの桜の大木が印象に強く残っていたから、私はあの情景を忘れなかった、あの時の彼も
「人違いじゃないと思う…」
「何を根拠に…」
「ホクロ」
「えっ…?」
「君の顎の所にある小さなホクロ…それがあの時の女の子にもあった事を思い出したんだ…君が帰ろうと席を立った時」
「あっ…」
さっき、確かに私が立ち上がった位置から胤也君は対角線上に座っていた、私から見て右側…って事は確かにこの左顎の下にあるホクロは丸見え…隠し通すつもりが逆に本人である事を教えていた。
「はぁ…」
「どうしたの?」
「頑張ってバレないよーにしてたのに…私ってば自分から正体バラすなんて最低だわ…」
「何で隠す必要が…?」
「あるのよ、私には」
「???」
ここまで来たなら仕方ない…全てを彼に明かしてスッキリしよう…どの道精算しないとならない問題な訳だし、これ以上隠しても意味はないから。
「良いよ…教えてあげる、但しあの場所に来てからだけど」
「あの場所…?」
「約束の場所よ…そしたら全部教えてあげるよ、私の事…それでスッキリするでしょうからお互い」
「良く…解らないんだけど」
「なら、良く思い出して…昔の事を、何をしたのかを…じゃあね、今日は帰る」
私は胤也君の手を払いのけると改札へ走りこんだ。
「約束の場所…?」
残された胤也は必死になって過去を振り返る…すると、ふと1つの景色が蘇った。
『早く大きくなってさ、ゆずちゃんと結婚とかしたいなぁ…』
『私と?』
『うん!僕、ゆずちゃんみたいな美人さんと結婚したい…ダメかな?』
『ううん…胤也君が望むならそーなれたら良い…だって私、胤也君の事だーい好き!』
『本当に?じゃあゆびきりしようよゆずちゃん』
『うん!しよーしよー』
(ゆーびきりげんまんウソついたらはりせーんぼーんのーます!ゆびきった!!)
桜の花の舞い散る大木の前で2人で交わした小さな約束…それは子供の頃の思い出かと思っていた。
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