手紙と預け物

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ーーーー「……!…お、光桜!…光桜!!」 咲夜に呼ばれて意識が浮上する。 目を開けると、バーのカウンターが目に入る。 頭をもたげながら身を起こす。 「ぅ…ん……」 「大丈夫か? ほら、水飲め。それ飲んだら帰るぞ」 お酒のせいか、どうやら眠ってしまっていたようだ。 懐かしい。先生の夢を見るなんていつ振りだろう……。 卒業した頃は毎日のように見ていた。毎日のように見ては、泣いていた…。 「マスター、水をくれ」 「はいよ。 …にしても、今日はいつにも増して呑んでるね。 なんかあったのか?」 「…いえ、何でもないです」 マスターから水を受け取って少しずつ口に運ぶ。 冷たい水を口に入れると少しだけ眠気が覚める。 そこでやっと、今日が何の日なのかを思い出した。 そうだった…。今日は、高校の卒業式の日。 ─────私が、先生に告白した日だ。 「光桜ちゃん。少しは酔いが醒めた?」 マスターからもう2杯ほどの水をいただくと、少しはマシになってきた。 「けっこう良くなりました。 マスター、ありがとうございます」 お礼を言ってコップを返す。 「じゃあ、帰るぞ」 腰を上げた咲夜に、私も続いて腰を上げようとカウンターに手をついた。 「あ、光桜ちゃん。ちょっと待って」 するとマスターに待ったを掛けられ、中途半端に上げた腰を下ろして椅子に座り直す。咲夜も戻ってきて隣に座った。 「突然で悪いんだけど……。 『────』って奴、知ってる…?」 マスターが出した名前にドクンッと心臓が跳ねてキュウ…と縮まる。 「マ、マスター……。 どうして…、…その名前を…」 唇が震える。声が震える。手が震える。 だって……。だって、それは…、 私が好きだった音。 私が、生まれて初めて好きになった……、私の担任の先生の名前だった。 「そうか………。やっぱり、…君だったんだね…」 マスターとは2年前に知り合ったばかりで、高校生時代の私のことは知らない。 ここで話していた失恋話でも、先生の名前は出したことなかった。 なのに、どうして私のことを知っているの?どうして、先生の名前を知ってるの…? 「『やっぱり』? 『やっぱり』って、どういう事ですかっ!?マスター!!」 カウンターに身を乗りだし、マスターの両肩を掴む。 「ちょ…光桜!落ち着けって!! さっきのほろ酔い加減はどこにいったんだよ!」 咲夜が止めに入ってくるが、酔いも醒めるに決まってる。 そんな事よりも、 「マスター!! 先生を!千代(ちしろ)先生を、知ってるんですか!?」 咲夜にはがされて座らされた。 「知ってるも何も、俺は中学時代からあいつと友達だったからな。 クラスも同じだった」 まさか、先生の知り合いがこんな近くにいたなんて……。 先生は、私が卒業して間もなく学校から姿を消した。 好きだと言っていた先生の仕事を辞めて、どこかに行ってしまった…。 捜してもきっと迷惑になるだけだと思って、捜すことはしなかった。 でも、元気でいるのか、どこで暮らしているのか。今、何をしているのか。 それは、いつも気になっていた。 でも、やっと…、やっと…見つけた。 先生の手がかり。
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