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その昔、二人の若い姉妹神がいた。
姉は凛としたしっかり者、妹は可憐でたおやかと、その性質は違ったけれど、どちらも大変美しく、気立ての良い、皆の希望と期待を背負う春の女神だった。
二人が微笑み、手を差し伸べれば、冷たく吹き荒ぶ冬の風は途端に和らぎ、柔らかく辺りを包む。
二人が朗らかに駆け抜ければ、その足元に広がる雪は静かに解け始める。
くるくると可愛らしく舞うその姿をよく見ようと、日の神もより近づき、またより長く地に留まって楽しんだ。
喜びに満ちた笑顔で迎えられる彼女たちの顔も、嬉しさの溢れる笑みが浮かび、それがまた愛らしく美しい。
二人を待ち望む皆の元へ春を告げて回るのが、姉妹神の役目であった。
姉妹は、役目を果たすために山へも向かう。
ただ、山の神は口数の少ない唐変木な男神で、二人の声は容易には届かない。
お役目を代替わりしたばかりのうら若き少女神では、二人がかりで手を掲ようとも、山の神の許しを得なければそこには踏み込めず、山に春は届かない。
しかし、二人がその美声を朗々と震わせ歌の神髄を響かせようが、すべらかな手足を伸ばし舞の妙技を披露しようが、山の神は全く頓着しなかった。
海に、里に、川に、田に、野に、あちらこちらで春を祝う声が軽やかに高らかに交わされる中、山は未だ冬だった。
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