春の神

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「赦しを乞う際に頭を下げるは、当然の道理だ」 「素晴らしき見識でございますが、私の説明の不足が原因であります故、謝意は無用にございます」 「いや。結界内を荒らす若い娘を思い報せてやりたいと思う気持ちがなかったわけではない。その不埒な思いに対する謝罪をさせてほしい」  でなければどうにも引きずったままだと、山の神はぎこちなく笑った。  その様子を、姉神はつい信じ難いと見つめてしまった。本当に山の神本人であろうか。噂とは随分違う。  二年前に声が届いた際も、それを確認してすぐに山を離れてしまい、山の神との接触はないに等しかった。  姉神は大いに戸惑いつつ、しかし山の神の隔てのない優しい口調や、未熟な自分達をも認めることのできる度量を眩しく感じ始めていた。  山の神はその力で以て、山を降りずに姉神の羽衣も取り戻し、姉神に与えた。 「羽衣などなくとも美しかったが、やはり神としての煌めきは格別だ」  そんな呟くような称賛が、一々くすぐったい。  その後、山の神の案内で山を巡った。その道すがら、 「実は、舞も歌もよく判らぬ」  足を止めぬまま、照れながらも遠慮なく言い切った山の神は、 「しかし、それでも美しいものは美しい」 と破顔した。  とくんと自分の胸を打つ何かがそこにあると、姉神自身にもはっきり判った。
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