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次の春を楽しみに待つ、と言ってくれた山の神の言葉を胸に抱き締め、姉神は、夏の訪れと共に天へと帰っていった。
しかしそれは、姉神だけではなかった。
内気な妹神もまた、山の神に惹かれ始めていた。
次の春、姉妹神は競うように駆けながら、それでも照れた笑顔をお互いに見つめ合っては笑い合い、朗らかに山へと向かった。
山の神は、一年前に交わした約束の通り、姉妹神を待っていた。
「いつになく長い冬だった。待ちわびたよ」
呟くような低い声音が、姉妹の鼓膜を震わせる。
翌春、地を駆ける姉妹のお互いに向ける笑顔は、ぎこちなかった。
姉妹の身の内に密かに生まれた薄黒い靄は存在感を増すばかりであり、彼女たち自身、それが嫉妬であると認識する他なかった。
その黒い染みを自分の心に認めて以降、お互いへの牽制は一気に表面化した。初めて手にした山の神への美しい想いを持て余し、荒れ狂う嫉妬で武装し守ろうとしているのかもしれなかった。
年を追う毎に、山の神との会瀬を重ねる毎に、姉妹の仲は険悪になっていく。
その胸の温かい想いだけを頼りに、悲しげな山の神も既に見えず、姉妹は睨み合い続けた。
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