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「どうしましょう、どうしましょう、羽衣がなければ天に帰ることができません」
泣き出す妹神の耳にはどんな慰めの言葉も届かない。
深く悲しみの底に沈む妹神を抱き締め、姉神は、静かに自らの羽衣を妹神の肩に掛けた。
「あなたは此処でお待ちなさい。私があなたの羽衣を探して参ります」
姉神の力強い声に、妹神も、ようやく涙に濡れた顔を上げる。
「何をおっしゃるのです。羽衣がなければ神の力は使えません。そのような無防備、あまりにも危険でございます」
「案ずるには及びません」
「羽衣の力は、持ち主の神にのみ忠実に働くもの。お貸しいただいても、私では使いこなせません」
「何に使わずともよいのです。ただ纏ってさえいれば神と認識され、無益な悶着を避けられましょう」
「それは姉君とて同じでございましょう」
「落ち着いてお聞きなさい。
羽衣がなければこの山にも入ることができます。この良い機会に私が山を一回りして、山の神を起こして参ります」
姉神の瞳の奥に強く優しい意思を見て、妹神は、自らの身勝手で過度な動揺を恥じ、漸く涙を拭った。
「姉君。そのお役目、どうぞ私にお譲りくださいませ」
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