春の神

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「仰る通りにございます」 「何奴か」  山の神の不遜な態度、不躾な質問に、気高い姉神も戸惑いはしたが、怯みはしない。何と言っても此方は羽衣のない身。不審に思われるのは致し方ないことだった。 「私どもは、春を司るものでございます」 「神を名乗るには、足りぬ物があろう」  山の神の高圧的な物言いにも、姉神は臆さない。  膝を震わせやっとのことで立っている妹神をその背に庇いながら、一歩も引かぬ気概を以て山の神に対峙する。 「先日風に飛ばされました神の証は、貴方様の腕の中にございます」 「これは先程、我が山で拾ったもの。そなたのものである証拠は何処にあろう」 「お返しいただけましたら、いくらでもご覧いただけましょう」 「おもしろい。拝見しよう」  山の神から羽衣を受け取って、姉神は、遅れ馳せながら自分のしくじりに気がついた。  ここにあるのは妹神の羽衣のみ。姉神の羽衣は、ふもとの若木に預けてきている。  これが逆であれば、自分が何とでもしただろう。しかし、いっこうに震えの収まらない妹神が、たった一人で何をできると言うのか。  今この状態ですら、可哀想で見ていられない怖がりようだ。
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