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「畏れ多くも、申し上げます」
姉神は膝をつき、山の神を見上げた。
「こちらの妹神と私は、二人で一対の未熟者でございます。私の羽衣がふもとにございますので、これより取りに行って参ります」
「我を謀るつもりか。証を見せると申し出たからこそ渡したものを」
「滅相もございません。私どもの姿をご覧下さいませ。この羽衣を探すだけでこのように労を重ねる半人前でございます」
「尚更、羽衣を持つ身とは信じ難い」
「お許しくださいませ。羽衣が二つ揃いましたら、必ずや貴方様の元へ馳せ参じましょう」
「ならぬ。今、此処で、そなたらの身元を明らかにせよ」
山の神の声は、じわりと怒りを含んできていた。
長く地に降りたままでも神力を失わない山の神は、春のみ地に降り来る姉妹神とは段違いに格が高い。防護のない今の姿で、遥か格上たる神の負の感情を正面から受けて、無事に済むとは思えない。
言葉が足りなかったことを悔やみながら、姉神は懸命に解決法を探った。
その姉神の二の腕が、不意に温まった。
視線を遣ると、妹神が手を添えていた。
手も、肩も、膝も、睫毛も震えながら、それでも妹神は真っ直ぐに山の神へと視線を向け、口を開く。
「力不足ゆえ、お見苦しいとは存じますが、どうぞ、ご覧くださいませ」
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