春の神

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 お待ちなさい、という姉神の言葉は、妹神により遮られた。  姉神に向けられた一瞬の視線は、弱々しく震えながらも、妹神らしい強固な決意を湛えていた。  姉妹で一対の若き少女神は、それでもやはり、神であった。  羽衣により神の光を身に付け、守護を受けた姿は瞬く間に元の可憐で美しき春告げ神へと変貌した。  しかしやはり、怯えを乗り越えるには若すぎる少女であった。  羽衣を得て力は戻ったものの、それをどう使いこなしていたのか、考えるほどに判らなくなってくる。  手足の動く様はとても舞とは言えず、先程まで姉神と歌い合っていたその声すら喉に詰まる有り様だ。  妹神もそれを自覚してはいたが、それによる焦燥は体を縛り、思考を妨げるばかりだった。潤んでくる瞳に、山の神が難しい表情で睨み付けている姿が映り、それによる一層の動揺で動きが拙くなる。  つい、すがるように姉神に視線を向けた。愛しい姉神が、いつになく狼狽えた表情を晒しているのが目に入った。  妹神の脳裏に、先刻見つめ続けた姉神の頼もしく優しく温かな広い背中が蘇る。  自分とさして変わらぬ年齢だ、その背中が特別広いということはない。そう感じるのは、自らの甘さ故だ。常に自分を守ってくれた姉への、過剰な甘えだった。  自分が泣けば慰め、落ち込めば励まし、笑えば共に笑ってくれた。それを当然と受け取っていた自分が、今更に苦しい。  護りのない今の姉神を護れるのは、自分以外にない。  妹神は振り上げていた腕を下ろし、体幹に力を込めた。  しゃんと筋を伸ばす。  もう一度初めに戻り、舞い直してゆく。
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