9人が本棚に入れています
本棚に追加
その後は、ただひたすら夢中であった。どのように舞ったのか、何を歌ったのか定かでない。
そんな朧な意識のその遠くから聴こえた、掌を打つ微かな音で、妹神は我に返った。
山の神が沁々と両手を打ち合わせているのが、妹神の目に映る。
「どうぞ休まれよ、春の神」
穏やかに発せられる男声は変わらぬ雄々しさだったが、しかし、荒々しさはない。深みのある安らぎの感じられるものだった。
そしてその表情は、それ以上に柔らかいものだった。
「我の無礼を許されよ。素晴らしき技を拝見でき、身に余る光栄であった」
「そんな、あの……」
「あのように大胆に芸を披露されながら、今になって堅くなることはありますまい。そういったところはまだ幼く可愛らしいことだ」
山の神の息を僅かに漏らしてゆるりと笑う姿はどこか艶かしく、妹神は更に身を縮ませた。
その体を抱き締めたのは姉神だ。
山の神の温かい眼差しは姉神へも向けられた。
「妹君を大切にする、強く高潔な姿はとても美しかった。それに比べ、我の無礼は低劣であった。申し訳ない」
「……お止めください。私どもなどに頭を下げるなど、勿体無いことでございます」
最初のコメントを投稿しよう!