春の神

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 その後は、ただひたすら夢中であった。どのように舞ったのか、何を歌ったのか定かでない。  そんな朧な意識のその遠くから聴こえた、掌を打つ微かな音で、妹神は我に返った。  山の神が沁々と両手を打ち合わせているのが、妹神の目に映る。 「どうぞ休まれよ、春の神」  穏やかに発せられる男声は変わらぬ雄々しさだったが、しかし、荒々しさはない。深みのある安らぎの感じられるものだった。  そしてその表情は、それ以上に柔らかいものだった。 「我の無礼を許されよ。素晴らしき技を拝見でき、身に余る光栄であった」 「そんな、あの……」 「あのように大胆に芸を披露されながら、今になって堅くなることはありますまい。そういったところはまだ幼く可愛らしいことだ」  山の神の息を僅かに漏らしてゆるりと笑う姿はどこか艶かしく、妹神は更に身を縮ませた。  その体を抱き締めたのは姉神だ。  山の神の温かい眼差しは姉神へも向けられた。 「妹君を大切にする、強く高潔な姿はとても美しかった。それに比べ、我の無礼は低劣であった。申し訳ない」 「……お止めください。私どもなどに頭を下げるなど、勿体無いことでございます」
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