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「それで?」
「それでって?」
「返事、聞かせてくれない?」
力を緩めたものの、美幸は変わらず俺の腕の中から離れようとはしなかった。俺の問いに、美幸はすぐに答えない。だが、その時間が何故か心地よかった。
「それはもう、いいんじゃない?」
「え?」
「だからその……察してよ」
「ん?」
「いやあの……」
「むむむ? むー?」
「えーい! うるさいうるさい!」
ぽかぽかと両手で俺のことを叩く美幸。その力は中々に強い。いや痛いわ。マジで痛い。
「痛い痛い! ごめんって!」
「許さぬ!」
しばらく美幸の両手ぽかぽか攻撃を堪え忍んだ。美幸は、息を切らしているようだった。呼吸を整えながら、俺の目を見て言った。
「……純平も、もう一回言って」
「え?」
「そしたら、ちゃんと答えるから」
「あ、うん」
さっきは勢いでポンっと言葉が出てきたが、改めて言うとなると恥ずかしいな……。顔から火が出そうだ。けど、気持ちは今も変わらない。
確かに段階をすっ飛ばしてるとは思う。でも、俺たちの空いた時間を埋めるには、これくらいが丁度いいだろ。俺は自分自身を納得させ、深呼吸をした。
一度、美幸から離れる。そして、目の前にいる美幸を見つめる。こうやって見ると、こいつってやっぱ美人だよな。いいのかな、俺なんかが……。って、それは美幸にも失礼か。
「ご、ごほん。えー、高坂 美幸さん」
「……はい」
俺の頭のなかには、美幸との思い出がよみがえる。最初に出会ったときは、美幸は人見知りで全然喋ってくれなかったこととか。
「高坂 美幸さん。ぼ、僕と……」
小学生の頃は、毎日一緒に遊んだ。中学生の頃は、一緒にカラオケとか買い物行ったりしたっけ。周りから見たら恋人同士にしか見えんよな。
「若輩者の僕ですが……」
高校生の時は……色々あった。今まで何度も後悔した。でも、それがあったから今があるんだろう。今こうやって、美幸と向き合えているんだ。
俺は。
「僕と、結婚してください」
美幸のことが好きだ。
「…………はい」
俺は、その時の美幸の笑顔を一生忘れないだろう。泣きながら笑うなんて器用なことをするんだな、美幸は。
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