ある夏の日に

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「春樹君はチョコ、好き? ちょっと待ってて。おじさん、買ってあげるよ」 それはほとんど衝動だった。心の中から吹き出す衝動だった。 そんな山村を見上げ、男の子は嬉しそうに目を輝かせた。 この子も、もしかしたら母親から甘いモノを禁じられ、厳しく育てられているのかもしれない。 けれど今この瞬間、この少年の共犯者になりたかった。 この子の親を捜さねばならない時に、何をしているのだという想いは隅に追いやられ、山村はそのチョコレートバーと、緑茶のペットボトルをレジに持っていき、精算を済ませた。 「ありがとう、食べてもいい?」 男の子はひんやりと冷たいチョコレートを受け取ると、遠慮がちに訊いてきた。 山村が頷いてやると、その子はうれしそうにチョコレートバーを頬張った。 時折山村に目を向け、目が合うたびにニコッと笑う。 仕草のひとつひとつが愛らしい。 「でも、春樹君のママに怒られないかな、チョコのこと」 立ったまま、懸命にチョコを頬張るその姿に癒されながら、今さらながら山村は言ってみた。 男の子はしばらくモグモグしながら山村を見つめていたが、やがて再びニコリと笑い、つぶやいた。 「ナイショね」 山村は一瞬わけのわからない波に呑み込まれ、息が出来なくなった。 その男の子の声色も口調も、まるで正輝のものだった。
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