ある夏の日に

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目頭が痛いほど熱を持ち、視界が歪んだのと同時に、頬に涙が伝った。 慌てて手の甲でぬぐう。 男の子はすでにチョコレートを食べ終わり、ただ驚いたようにこちらを見ている。 目の前で40を越えた男がいきなり涙をこぼしたのだ。小さなその子には訳が分からなかったのだろう。 山村はフラフラとすぐそばにあったベンチに座り、頭を垂れ、「目にゴミが入ったんだ」と言い訳をして、改めてハンカチで顔を拭った。 鼻の奥がジンと痛み、涙が溢れてくる。 ああ、この子の親を捜してやらなければならないというのに。自分はいったい何をやっているんだろう。 息を吸い込み、気を逸らそうとするのだが、涙が止まらない。 ふと、頭に触れるモノがあった。 男の子が、うなだれている山村の頭をそっと撫でているのだ。 驚いて一瞬動きを止めたが、その感触がとてつもなく心地よく、山村はその手が自分の頭を撫でるのに任せた。 その手の主はやがて、「ごめんね」、と小さく言った。 「なぜ、ごめん?」 「春樹が泣かせちゃったんでしょう?」 「そんなことないよ。君はちっとも悪くない」 「おじさんだって、ちっとも悪くないよ」 その声に、体中の血が一瞬ざわめいた。 現実の雑音も暑さも遮断し、ほわりと包み込んでくれるような声。 山村はゆっくり頭を上げ、呆けたように、目の前に立つ男の子を見つめた。 目が合うと琥珀色の瞳を細め、その子は再び柔らかく笑った。
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