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昭和35年
海上自衛隊〇〇基地基地祭
1本の桜の木の下に、凛々しい制服姿の若者が数人集まり、再会を喜びあっていた。
「オイ! 遅かったじゃないか?」
「すまん、すまん、また道に迷っちゃって」
「お前まだ方向音痴治っていないのか?」
「そのようだ」
「まあ良いじゃないか、来られただけでも、な!
ほら飲め」
遅れて来た若者に、先に来て飲んでいた若者が徳利を差し出す。
「否、俺は酒より団子が食いたい」
「団子かぁ…………確か? 向こうの方に屋台が出ていたぞ」
「団子は団子でも、お袋が作ってくれた団子が食いたいのだ、俺は」
「そうか…………」
「あ!」
皆の会話を1人手酌で飲んでいた若者が、突然驚きの声を上げる。
周りにいた若者達の内の1人がその声に反応し、驚きの声を上げた若者に声をかけた。
「どうしたのだ?」
「許嫁だった女性が来ている」
「お!?どの子だ?」
「あそこ、子供を挟んで親子3人並んで立っている女性。
あ、あの一緒にいる男は、俺の弟だ」
若者達はその親子連れに注目する。
家族3人仲良く手を繋いでいる女性が、子供に声をかけた。
「…………」
それを聞き若者達は、声を上げた若者に次々と声をかける。
「子供にお前の名前をつけたのだな」
「お前を忘れまいと名付けたのだろう」
「祝福してやれよ」
その時一陣の風が吹き、桜の花びらを空に舞わせた。
「ああ…………花が散る」
「ああ、散るな」
「また来年会おう」
「来年は遅れるなよ」
凛々しい海軍士官姿の若者達は、段々と薄くなり、桜の花びらが舞う空に溶け込んで行った。
貴様と俺とは 同期の桜
同じ兵学校の 庭に咲く
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