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深夜の診察室、そこで告げられた言葉をアヤノはすぐには理解できなかった。
そんなアヤノの様子に気が付いた医師は、モニターに再度映像を映し出しながら、ゆっくり、確かめるように繰り返す。
「あなたは今、急性の心身分離性症候群という病に侵されています。先ほど話していただいた体の不調も、すべてはそれが原因です。これは最近急増している病気で、ネット上に存在する、あなたの分身ともいえる『ココロ』にあなたの本当の精神が引き寄せられ、それにより体から心が分離されるというものです…………そして、今この時点において、この病に対する有効な治療法は発見されていません」
最後の一言を告げる時、医師の声は震えていた。真新しい白衣を着た医師はまだ若く、年齢はアヤノとそう変わらないだろう。この病の診断をするのが初めてなのか、ためらいながら、彼は告げる。
「このまま病気を放置すれば、一か月もしないうちにあなたの体は機能しなくなり、あなたは命の危機にさらされます。ただ…………ただ一つだけ、これから処方する心身分離薬という薬を飲めば、あなたの心だけは救うことができます」
医師の言葉に合わせ、モニターの映像も変わってゆく。真っ白な色で表現された精神が、黒色で表現されたネット上に位置する『ココロ』とぐるぐると混ざり、溶け合い、焦げ茶色へと変わってゆく。
アヤノの目に、それは、チョコレートのようにうつった。
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