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「あの…………心身分離薬というのは、この間テレビで見たんですけど、心だけが生き残るという薬ですよね」
「はい。分離を進行させ、『ココロ』と完全に融和させることにより、精神だけを助けます」
「じゃあ…………私の体は助からない、ということですか」
「…………残念ながら、今現在はそうなります」
辛そうに医師は告げると、いたたまれなくなったのか、視線を自分のデスクの方へとそらす。アヤノもつられるようにしてデスクの方を見ると、小さなデジタル時計が目に入った。時刻は深夜23時47分。もうすぐ、日付が変わる。
そして、再びアヤノが医師の方を見ると、彼は膝の上で拳をぐっと握っていた…………強く、強く握られた拳は、小刻みに震えていた。
きっといろいろ言いたいことがあるのだろう。ただ、最近は、病院内では医師と患者の間で診察内容以外の会話はすべて禁止されている。だから、これ以上彼がアヤノになにか言うことはできない。
そんな医師に、アヤノは、深く息を吸い込んでから告げる。
「わかりました。ありがとうございました」
泣いたら負けだ。そう自分に言い聞かせ、感情を押し殺し、アヤノは笑顔で言った。
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