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診察室を出たアヤノは、病院の静かな廊下を歩く。うつむき、照明を反射する床だけを眺めながら。二十四時間診察の病院が珍しくない最近では、入院設備を持っていないこういった小さな病院は静かなものだ。廊下に、アヤノの足音だけが反響していた。
アヤノは受付で支払いを済ませ、『薬箱』と呼ばれる手のひらサイズのケース受け取り、出入り口へ向かう。
真っ白に輝く薬箱。その表面にあるパネルを操作し、中から出てきた薬を飲んでしまえば、もう後戻りはできない。
分離は三日以内に始まるから、入院準備をして、明後日までには紹介された病院に行くように…………そう、あの医師は言った。
三日。
わずか三日で自分はこの体を失う。
肉体から分離された心は、いったいどうなるのだろう。肉体を失ったら、それでも自分は人間なのだろうか。仕事は?家族は?
カバンに入れている携帯に手を伸ばそうとして、やめた。今はとてもそんな気になれない。親しい誰かと話をしたら、とたんに涙があふれてしまいそうな気がした。
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