第4章 甘い罠

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第4章 甘い罠

日曜日。キッチンで一人、チョコレートトリュフを作り始めた。  刻んだチョコレートを湯煎で溶かす。ヘラでグルグルとかき混ぜながら、どう告白しようか考えていた。 ブツブツと小声で、ああでもない、こうでもないと呟く。見ようには、媚薬を作りながら呪文を唱える魔女のようだ。 その二日後。決戦のバレンタインデーがやってきた。 放課後、決心が付いた真菜に友達が近づき、耳元で囁いた。 「頑張って」 もう、後戻りは出来ない。由輝が待つ校門へと一人歩き出す。 帰り道にある、幼い時分によく二人で遊んだ公園。告白するならここしかないと思っていた。 「ちょっと寄らない?」 由輝を公園に誘った。 小さい頃は、届かなかった雲梯も、あんなに大きく見えたジャングルジムも、今は小さく見える。そして今は、由輝の後ろ姿が大きくみえる。 「ねぇ、チョコ渡したいんだけど」 「おう、サンキュー」   真菜は、バックからチョコを取り出した。手提げ型の紙袋を両手で持ち、渡そうとするが、上手く言葉が出ない。 「あの、あのね。私…」 「どうした?」 顔が熱い。みるみる紅潮する。 「わ、私、ずっと由輝が好き…だったの」  そのまま、手に持った袋を由輝に突き出した。  彼はチョコを受け取ると、何も言わず歩きだした。  
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