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「ねえガウリー、相談なんだけど。」
「なんですか?」
「行くところが無いなら、私の弟にならない?」
「なりません。」
俺が断るとアスは俺の手を離した。
「さっきカイさんから名前を貰ったので、弟にはなりません。」
「名前を貰った?」
「捨てられたのに、同じ名前を使うのはまずいって。」
「そうね。」
「それで、僕の見た目が和の国って所の人達にそっくりだから、昔カイ達さんを助けてくれた人の名前をくれるって『九重 巧翔』と言う名前を貰いました。」
「そう、良い名前を貰ったわね。」
「はい。」
「その名前、私にとっては命の恩人の名前だから、大切にしてね?」
そんな人の名前を貰ってしまって良いのだろうかと、一瞬考えて、これが俺の本名と同じだという事を思い出した。
「じゃあ、僕もアスがピンチになったら助けるよ!」
「子供が生意気言うんじゃないわよ。」
「その人の話、聞かせて貰って良いですか?」
「うーん、別に良いけど、ご飯食べながらね。」
アスにご飯を貰って食べ始めるとアスは腕を組んで考え始めた。
「特にこれと言って話せるようなことは無いのよ。」
命を救って貰っておきながら、ほとんど覚えてないとは・・・。
「その時私は夜警をしてて、その頃の私達じゃ太刀打ちできないモンスターと遭遇してしまったのよ。」
ふやけたパンを咀嚼しながらアスに視線を向ける。
「それでも何とか追い払おうとして、剣を向けたんだけど、そのモンスターは剣を見ても怯まずに私に飛び掛かってきた。」
うんうんと首を動かして次を促す。
「その時、そのモンスターから私を庇ってくれたのがその九重巧翔って人。」
アスは少し興奮した様に続きを離し始めた。
「その人はモンスターの牙を剣で受け止めて、押し返して、睨みつけたのよ。」
更にアスは続ける。
「そうしたらね、そのモンスターが仰向けになって甘えた声を出したのよ。」
殺気だけで屈服させたという事だろう。
「九重さんは剣をしまってそのモンスターに近づいて頭を撫でたわ。それで、モンスターは九重さんの顔を一舐めして去って行ったのよ。」
俺は食べ終わった食器をアスに返す。
「何が凄いって、襲い掛かってきたモンスターを、倒さずに退けた事!一滴の血も流さずによ!?凄いよねぇ・・・。」
話をするアスは恋する乙女のようだった。
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