旅立ち

17/21
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/202ページ
エイコ(水着)に背中を流して貰って、一日働いてきた父親もかくやの『あ゛~・・・』を発声し、風呂を出れば食事が用意されていた。 「今日はやたらと気が利くじゃないか、何かあったのか?」 「大切なものと言うのは、失って初めて気が付くもので御座います」 「意味が解らんのだが」 「昨日の夕方より、タクト様のお世話をする事が出来ず、それが出来る事がどれだけ私にとって大切な事であったか、それに気が付いたのです」 なるほど・・・解らん。 「昨夜は、タクト様の夜のお世話(健全)ができず、体(力)を持て余し、夜も眠れず、タクト様の事を想い枕を抱きしめて朝を迎えました」 「その、人が聞いたら誤解されそうな言い回しは何とかならないのか?」 「タクト様が悪いのです、この年齢の男性は女性の体に興味深々な筈なのに、一度も誘いには乗って来ていただけませんし」 「いや、俺、妻帯者だし」 「王妃は王妃、妾は妾で御座います」 「そうな、それはそれだ。つまり、他の王族は他の王族、俺は俺だとも言える」 「ぐぬぬぬ・・・」 「王族が子孫を残さなきゃいけないのは解るが、俺は元々王族じゃないから、もし沢山の子孫を残さなきゃならないなら、頑張るのは俺じゃなくてアルトさんだ」 「それは、アルト殿下が浮気をしても、タクト様は何も言わないと言う事でしょうか?」 「それ位の覚悟はあるが、実際そうなったらどうなるかは、ちょっと想像できない」 嫌な気持ちにはなるだろうし、家出するかもしれないな。 「アルトさんの事は信じてるし、アルトさんも俺を信じてくれているって思ってる。だから、俺は彼女を裏切らないし、嫌な気持にもさせたくない」 真剣な顔でそう告げれば、エイコはうっと言葉に詰まった。 エイコはアホではあるが、決して人に害をなす者ではない。 「私のこの気持ちは、どこに向けたらよろしいでしょうか・・・」 「きっとその内、それを俺以外に向ける日が来るよ」 想い慕ってくれるのは嬉しいが、それには応えられない。 俺はエイコの頭を撫でて、溜息をついた。 「エルフの寿命は長いんだろ?長く生きていれば恋の一つや二つする物だ。その時まで、その気持ちは大事にしまっておくと良いよ」 「そうで御座いますね、殿下にお許しを頂けば良いのですね」 そんな事は一言も言っていないのだが、どう解釈したのだろうか?
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!