プロローグ

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4月、塀を抜けた先に、不思議な場所を見つけた。 そこに行くための道はひどく無機質なのに、一度立ち入ればそれを忘れてしまう。 広い草の生えた空き地にある、一本の大きな桜。 他の桜と同じように咲いているはずなのに、何か特別な雰囲気を醸し出していた。 引き込まれるように近づいて、幹のそばに座ってみる。 遠目で見たときより大きく感じた。 おそらく自分しか知らない秘密の場所だろうという優越感に浸りながら、一人きりの花見。 花見がてら、丁度今日借りてきた本でも読もうと鞄の中から表紙が赤色の本を取り出した。 内容は偶然今と同じで、桜の話。 精神的に窮地に追い込まれた主人公が辺境で桜を見つけ、そこから変わる人生を描いている。 今の自分と酷似していた。 唯一違うのは、別に精神的窮地には置かれていないというところ。 この桜に出会ったことで、人生が変わるかは分からないけれど。 すると、本の中の主人公がこんな事を言った。 『桜の下には死体があるそうだか、お前はどうなのだ?』
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