追憶のさくら

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それしかないと分かっていても、決断には時間がかかった。 駆け落ちして、行方をくらませるなんて、親不孝もいいところ。 それに、彼女の両親には、結婚に反対こそされたものの、学校にも通わせてもらい、とても良くしてもらった。 だから、最初は自分が身を引こうと思った。 けれども、『これで最後』と、心に決めて彼女に会う度に、別れを切り出せず、ついに彼女の方から駆け落ちを切り出した。 そこまで自分の事を思ってくれたんだと嬉しい反面、残酷な決断をさせたばかりか、彼女に言わせるなど、自分は男として最低だとどれだけ思ったか。 しかし、最低だと理解しても、どうしようもなく嬉しかった。 灰色の、冷たい冬が終わって、 鮮やかな、あたたかい春がやってきたようだった。
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