追憶のさくら

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やがて、列車はガタンと揺れて、少しずつ速度を上げてホームから離れていく。 すぐにやって来た車掌さんの話では、あまり混んでいないらしく、この区画は終点の長崎駅まで二人で貸し切りらしい。 ならば広々と使えばいいものを、一つのベッドに二人並んで、寄り添いながら寝ていた。 緊張して眠れず、さりとて何かを話すわけでもなく、ただ、二人の存在だけを意識した時間。 今、少しずつ、生まれ育った東京の街から離れ、僕らは新天地へと旅立つ。 これからの旅路は、険しくも、きっと二人でならやっていけると信じて進む、後戻り出来ない長い道のり。 いつの間にか意識はなくなっていて、次に目が覚めた時、列車は九州の街並みの中を走っていた。 東京の寒空と違って、九州には一足早く春が訪れており、桜の花があちこちで咲いていた。
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