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学祭は大成功だった。ギターボーカルの慎ちゃんは盛り上げるのがうまくて、私が緊張する必要なんて全然なかった。
後夜祭の始まろうとしている学校で、私と慎ちゃんは二人、駐車場にいた。
「忘れ物ないよね?」
「おー、全部積んだ」
ドラムとアンプはレンタルだ。今日中に返しに行かないといけない。積み込みは部員全員でやったけど、みんなには後夜祭に戻ってもらった。
慎ちゃんは私も戻っていいって言ったけど、なんだかんだと理由をつけて残ってしまった。慎ちゃんがいないならつまらないし……。
「……楽しかったなぁ」
学祭特有のざわめきが、遠くで聞こえる。慎ちゃんはぽつりと言った。祭りが終わってしまうのは、いくつになっても淋しい。
子どもの頃、慎ちゃんと一緒に近所の公園であった夏祭りに行ったことを、ふと思い出した。二人して浴衣を着せてもらって、ヨーヨーすくいや輪投げをしたことを覚えている。祭りが終わった帰り道。手を繋いで歩く道が、今日のように淋しかった。
ふと視線を上げると、慎ちゃんと目が合った。その目はどこか、緊張している。私はその目から目を離すことができなかった。
「亜弥ちゃん」
グラウンドの方で歓声が上がった。キャンプファイヤーの火が点けられたのだろう。その歓声を遮るように、慎ちゃんは言葉を続ける。
「好きだ」
十八歳の秋。私はこれほど幸せなことはないと思った。
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