この花がいいね、と彼が言ったから

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「ここ空いてる?」  顔を上げると、そこにいたのは渡瀬先輩だった。ガラス張りの学食。窓の外に見える桜並木は、冬風に吹かれて寒そうに枝を震わせている。  私はノートとペンを引き寄せて、場所を開けた。 「寒いねぇ」  渡瀬先輩は隣に座って、缶コーヒーで手を温めている。来たばかりなのか、マフラーを外してかばんと一緒に横の椅子に置いた。 「本当ですねぇ。地元はここまで冷えることなんてなかったから、暖房代が怖いです」 「九州だっけ? 今村君と一緒なんだよね?」  その言葉にちょっと引っかかりながらも、私は頷いた。  二人の間に沈黙が流れる。窓の外に吹く風の音は、ガラス一枚隔てているから聞こえなくて、学食のざわめきだけが耳に届いていた。 「今村君と、付き合いだしたんだって?」  ポキンと折れたシャーペンの芯が飛んでいった。このタイミングで聞かれるとは思わなくて、心に動揺が走る。  何と答えたらいいか迷っている私に、渡瀬先輩はぷっと吹き出した。 「そんなに焦んなくてもいいよ? いつかこうなるんだろうなぁとは思ってたし」
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