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ああ、あああ。
また一つ、こぼれ落ちていく。
私を、私足り得るものとして形成してきた、知識、経験、技術、力……────憎悪。
それが砂上の楼閣の如く崩れ落ちていく。
まるで、あの日の空の様に。
この妖刀を手にし、誓いを立てたあの日。
あの日、私は死んだのだ。
吐瀉物の様な土砂降りに打たれ、私は死んだ。
それまでの私を、憤怒だけが塗り尽くした。
本懐を遂げた私は、最早、今ままでではいられない。
もう、お終いだから。
私の指先が、そっと私の瞼に触れた。
深い刀傷────私の瞳が、景色を映す事は、もう二度と無いのだろう。復讐の対価だ。
安い安い。
そして、この腕も。
私の右腕は、そっと、左肩を抱いた。
左腕の無い左肩を。
「………………」
ああ、血が……足りない。これまで……かな。
光を映さぬ私の瞳に刻まれた記憶が甦る。
最後に…………最期に見たかった。
いつか、父上と母上と見た……故郷の桜並木を。
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